<回答>
個人では、本事例のような分院開設を行うことはできません。なお、本事例では診療圏をたしかなものとし、事業承継を行うために経営資源の分配が行われています。
正しい対応
個人では認められていない分院開設ですが、医療法人を設立することでこれは可能となります。
医療法人のメリットの一つは、スムーズな事業承継にあります。医療法人においての相続対策・事業承継対策では、医院や診療所の管理に携わる責任者を変え、後継させたい者を理事と社員に加えることで完了するのです。
税法等の解説
医療法人設立のメリット
まず、税制面で優遇される可能性の高さが挙げられるでしょう。個人所得税(超過累進課税率)や住民税を(最高50%から)、法人税・法人住民税(実行税率約21%または約35%)と併用することで、税制面での優遇を受けましょう。(参考:平成27年度より個人所得税率は最高45%で、これは住民税と合わせると55%になります。)
更に、分院の開設が可能となることも、メリットとして挙げられるでしょう。分院開設は法人にのみ可能であり、個人には許可されていないからです。ただし、この分院開設は信頼できる医師を見つけておくことが必要です。
院長の所得
院長の所得が給与所得控除の適用対象となります。なぜならこの所得は医療法人から支給されるからです。
退職金の税制優遇ここから
引退時に受け取ることができる、退職金は、その後の生活の安定に活用できます。なお、この退職金は税金面で有利です。通常の給与と同様にして所得税の計算では処理されるからです。
① 分離課税
② 退職所得控除
1~20年 40万円×勤続年数
20年超 800万円×{70万×(勤続年数-20年)}
③ 計算(退職所得)
(その年中の退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2
右図から、給与で受け取るよりも退職金で受け取るほうが所得税・住民税をかなり減額できることが明らかです。
その他のメリット
① 支出項目のうち経費に参入可能な項目(生命保険料など)が増えます。
② 赤字の繰越控除期間が9年間に設定されています。(個人では3年間)
③ 法人に年金の保険料の半分を負担させることになります。国民年金から厚生年金に切り替わるからです。法人が負担する金額は損金となります。
分院の設立
分院の開設は、地域で長年医療に携わる医院にとって取りうる次のステップの一つとなるでしょう。手元に多くの現金が残っていて、経営が安定しているような場合はより一層、一考する価値があります。
分院設立は医療法人設立のメリットの一つとなるでしょう。個人では分院の開設が認められていないので、医療法人を設立しなければならないからです。
分院設立の経営的・資金的なメリットは、診療所を拡大できたり、共同購入によってコストが削減できることが挙げられます。
また、分院設立によりたとえば、分院にはあえて自由診療に力を入れさせるなど、本院との役割分担を図ることによって、地域のニーズに応じた医療サービスを提供することも可能になります。
複数の都道府県をまたがって分院を開設させることもできます。別の医師を理事長とする医療法人を新たに設立し、グループ化するか、広域医療法人の認可を厚生労働省から受けることで可能になります。
なお、信頼できる医師を分院長として選ぶことが、分院設立に極めて重要な工程となります。
なぜなら、本院と分院の院長が対立し、本人と分院の連携が機能しなくなってしまうケースが多いからです。院長との医療方針の違いや人柄が合わないなどの理由から、本人と分院の院長の対立は生じています。
たとえ家族であっても、借金をしてゼロ(マイナス)からスタートして苦労して医院を大きくしてきた、たたき上げの経営者である院長と、勤務医から院長という経歴を辿った医師との間には、感覚には大きな差があります。分院の院長をうまく育成するためには、割り切るところは割り切って、これまで歩んできた道から醸成される考え方の違いを受け入れることが大切です。
分院長に、勤務医と経営者は違うという覚悟を持ってもらうため、給与体系で何らかの工夫を行ったり、分院開設の際の借金の連帯保証契約を行うことも効果的です。
後継者の医院経営のトレーニングの場として活かすこともやり方次第では可能となるため、分院設立は苦労を伴いますが、是非挑戦してみましょう。
税理士からのPOINT!
医療法人設立のメリットは大きく2点あります。まずは、分院の設立が可能になることです。分院の設立は、後継者の医療経営の練習や、広域のニーズに答える医療サービスを実現する効果がありますが、分院を設立するには、医療法人の設立が必須条件となります。2点目は、医療法人設立は税金面で有利になる可能性が高いことです。