医療法人についてのイロハ

医療法人設立によるデメリットを解説してください。

Q.現在も経営に携わる内科クリニックは、「地域で支えあう医療」という理想のもと、一昨年独立し開業しました。この理想を達成するためにも本クリニックでは、地域の高齢者のために、様々なサービスを提供しています。たとえば、訪問看護等です。このサービスですが、急に駆けつけなければならないことも多く、採算の厳しい状況のなか何とか経営しています。これはひとえに、3人の看護師が私の理想に理解を示してくれて、この理想のために一生懸命働いてくれているおかげだと思っています。
先日、ある方から「医療法人にした方がよいのではないか?」とアドバイスされました。公共性のある事業である点を活かすためです。その言葉を聞き、私も医療法人設立を前向きに進めることにしました。ところが現在、事業計画策定はとん挫しています。常勤事務員を新たに雇い入れなければならなかったり、社会保険に加入しなければならないために法定福利費が増加したことで、収支が合わなくなってしまったのです。本クリニックの医療法人化は難しいのでしょうか?

<回答>
計画を考え直さなければなりませんね。医療法人化検討の動機が社会的な意義にあることは大いに評価できる点ですが、医療法人化によりコスト増が発生しうるということをきちんと想定しなければなりません。

正しい対応
事業の公益性を高めることを目指し、社会的に価値のあるサービスを拡充させるために、医療法人設立の持つメリットに惹かれることは大事なことです。
ですが、デメリットも十分に理解しておかなければならないでしょう。医療法人設立にともない、労務費を含めてコストは上昇する点です。コストの上昇が経営を圧迫し、果たしたかった社会的義務を放棄しなければならなくなってしまったら、本末転倒ですよね。
こうしたことに注意し、自身の医療事業の経営状況をよく勘案しながら、医療法人化を検討することが重要です。

[税法等の解説]
医療法人設立のデメリット
1社会保険加入の義務発生
5人未満の従業員で、個人で医療事業を展開している場合は、社会保険に加入する必要はありません。ですが医療法人は必ず社会保険に加入しなければなりません。従業員の人数如何は考慮の対象となりません。社会保険料の負担は、医療法人が半分、従業員が残りの半分、という仕組みです。そのため、医療法人の経営コストは上昇します。

 

2交際費の一部が損金にならない
通常、個人で医療事業を展開している場合、飲食・ゴルフ接待等の交際費は全て損金として扱われています。しかし医療法人の場合は、交際費の一部のみが損金となります。まず、交際費には上限が設定されており、その限度額が多いか少ないかはそれぞれの事情によると思いますが、600万円となっています。600万円を超える部分の交際費は一切損金となりません。そして、損金として認められるのは、交際費の90%です(1億円以下の出資金で設立された医療法人の場合)。つまり、損金として算入されるのは最高でも540万円まで、ということになります。医療法人化を検討するときはこれらの制限を考慮し、交際費の状況も法人化判断材料の一つとしたほうがよいと思います。
ただし、中小法人の交際費課税の特例措置のため、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に事業を開始し支出した交際費の限度額が800万円となりました。そして、90%という制限も無く、全額を損金とすることができるようになりました。

3医療法人のお金の使い道を、院長個人の自由な裁量で決定することができない
医療法人では院長個人への貸付制限があるため、院長が個人的に急なお金を要しても医療法人のお金を使うことができません。また、剰余金配当の禁止も定められているため、たとえば収益が大幅に向上し利益処分が必要になった場合に臨機応変に対応できません。

4事務処理の増加
こなさなければならない事務処理数が増えていきます。新たに増える事務の例として、決算書類を都道府県知事に提出することや、役員変更等の登記を法務局にて行うことが挙げられます。

5都道府県などによる指導監督権限の強化
立ち入り検査をはじめとした、都道府県知事の名において行われる指導が強化されていきます。

税理士からのPOINT!
それぞれの医院の経営環境によって、医療法人設立に伴い発生する様々なメリットを十分に活かすことができるかは異なります。医療法人設立のメリットについ目を奪われがちですがデメリットもしっかり検討しましょう。